2011年4月10日日曜日

“初回は顔を売るだけ”の営業

 先日会った営業マンは、これまでのうちでもかなりすごかった。もちろん、いい意味である。
 大手の営業マンだったというのもあるかもしれない。そして、平社員ではなく、管理職クラスであった。管理職といっても、おそらく係長もしくは課長といったところだろう。横文字の役職だったので、どの程度の管理職なのかは定かではない。

よい営業マンは武装をしない

 その営業マンは電話営業でアポをとってきた。大抵の電話営業は断るのだが、断らなかった理由は、物腰がソフトだったからだ。そして、自然体だった。物腰がソフトな話し方でも、自然体でない人は非常に多い。特に20~30代の男性に多いと思う。自然体かそうでないかは、わたしの感じ方次第なので、これを伝えるのは非常に難しい。感覚的な問題だから、人によっては違う見方をするだろう。しかしわたしにはわかる、なんていう大それたことを言うつもりはない。そもそも人を見る目というのは、感覚的なものである。感覚は実践を伴うことで研ぎ澄まされていく。だから、感覚を鍛えたいのであれば、多くの人に会うしかない。そして、観察することだ。観察するだけではなく、結果として、良い気分になったのか、嫌な気分になったのかを、同じ人に対して、一度ではなく何度でも判断することである。この人のこういう面は好きだ、いいと思う、しかし、この面はいただけない。総合的に良い点が嫌な点を上回るか、下回るかで決めるのである。あくまで冷静でありながら感情的に決めるのである。矛盾しているようだけど、感覚というのはそういうものである。

 プライベートで人と会う場合と違い、仕事で会うのであれば、相手は何らかの手段で本来の自分を偽っていることが多い。プライベートであっても本来の自分を偽ることはあるが、仕事での偽り方はプライベートのそれとはかなり違う。武装といってもいい。この武装は、営業に向いていない人ほどしていると思う。そして、大抵の武装は見破れる。そもそも、相手は契約を取ろうとしてきているのである。それがなくては会いにこない。しかし、契約を取るために武装をして自分を偽る必要はない。だから、いい営業マンは特に武装をしていない。いい営業マンは武装ではなく、心がけをしている。相手を不快にさせない見た目、振る舞い、相手の疑問に答えられるだけの知識。相手を困らせない営業スタイルである。

ほぼ雑談、初回から飛ばさない営業

 前日、その営業マンは確認の電話をかけてきた。明日~時に会うことになっているが、本当に構わないか、である。そして、当時はもちろん時間通りに来た。
 まずは日常の話でつい最近あったことを話す。それも、独りよがりの話ではなく、お互いに関係のある話である。わたしはこうだったけど、あなたはどうでしたか?というのがいい。そして、話はこちらの会社について感じた疑問点に移る。これはこちらの会社に興味があり、ある程度は調べてきているというアピールにつながる。しかし、それをそれと思わせずに、あくまで自分が興味が沸いたので、というのがいい。昔そちらの製品を使ったことがあったり、自分の身内が使っている、などである。

 その営業マンが凄かったのは、その雑談から、絶妙な感じで自分の製品のアピールにつなげたことである。とはいえ、そういうつなげ方はいやらしさが伴う。だからその営業マンは、「だからというわけではないですが」というような感じで、自分の製品紹介につなげることを、申し訳なさそうに弁解した。それでいて、きちんと製品紹介は行った。こちらも、それまでの雑談でほぐれてきていて、そろそろ本題を、といった空気ができあがっていた。紹介してもらった製品は、こちらではまだ必要ではないものであった。それは話をしているうちに感じとったのであろう。あまり強く営業をかけてこなかった。これが、ガツガツしている営業マンであれば、何とかして次につなげようとしてくるものである。

日報に書くための営業をしない

 結局この営業マンと話を1時間ほどしたけれども、営業をしたのは20分にも満たないだろう。殆どは、若干商品に関連性があるかもしれない雑談であった。申し訳なくなって、こっちから、商品についてあれこれ聞いてしまうほどであった。「こういったカタログはないか」と聞いたとしても、今度持ってきますではなく、メールで送ります、だった。もはや来るまでもない会社と思われたのかもしれないが、こちらとしても早々に見切りを付けてくれた方が助かる。
 買うつもりもないのに、次回また来ますと言われても、それは誰のための営業であろうか。それは、その営業マンが日報に書きたいから来るだけのことであって、こちらのために来ているわけではないのだ。つまり、自分のための営業である。彼らにとっては、会社への報告がすべてであり、契約がとれようと取れまいと(とれればそれに越したことはないが)、お構いなしである。わたしは一定のことはやった。ここまでやったけど、ダメだったのは残念だった。あと一歩だった。そう日報に書くことができれば、仕事をしたことになる。しかし、それは会社の姿勢にも問題があると思う。

 つまり初回から結果を出せ、という指示をしているのである。すぐに結果を出せ、出せなければ怒るぞ、と。怒られるのが嫌だから、無理やりな営業をしかける。無理やりな営業をしかけると、相手を嫌な気分にさせる。強引に契約をしたからといって、決して彼にプラスにならない。強引で相手を嫌がらせる方法を覚えていくだけで、気弱な人からは奪い取ることはできても、やがて行き詰る。しかし、それに気づいたときには後戻りできないところまで来てしまっている。もしくは、気づくことができないまま、彼の営業人生はしぼんでいく。ピークは若さで強引に営業をしかけることで、カモを数人見つけることができるようになった30代の頃であろうか。

 それに対し、この日会った営業マンは、初回から契約を取りに行くのではなく、初回は顔を売るだけ、というまさに営業の基本を地でいった人であった。こういう人には、何かあったときに、声をかけようかなと思うのである。

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