2010年2月12日金曜日

小さなことにくよくよするな! しょせん、すべては小さなこと ― リチャード・カールソン

 いわゆる自己啓発本である。こういった類の本を読むことは昔はまずなかった。何も悩みがないとき、順調に物事が進んでいるときというのは、そういうものだ。頼る必要がないのだから。しかし、あるとき、挫折を味わったことをきっかけに、ビジネス書の類にその解決策を求めようと思い、読み漁るようになった。

 わたしの挫折は、同じ部署に配属された2名の同僚であった。
 彼らは大学を卒業と共に、わたしの部署に「1年だけ」という約束のもと、配属されてきた。本人達が望んだのも別の部署なので、そもそもやる気がないという感じは伝わってきたのだが、それよりも酷かったのは、仕事に対する態度である。社会人として、基本がなっていなかった。もちろん、社会人なりたてなんだから、基本ができていないのは仕方がないと思うかもしれない。
 しかし、そんなレベルではなかった。まず、遅刻は当たり前、無断欠勤もする。仕事のアドバイスをしてやれば、「そんなことはわかってます」で、話を聞かない。でもできていないので、やっぱりアドバイスをしなければならない。でも、聞く耳を持たない・・・の繰り返しだった。

 そのとき、かなり忙しい時期であり、しかも上司が別の部署との兼任だったので、こちらの仕事を全く見れない状態になっていた。
 技術的な知識がなければできない仕事であったので、まずその二人に勉強してもらわなければならない。そして、すぐに学んだことを仕事に生かしてもらわなければならない、というかなり無理な要求ではあったと思う、しかし、そもそも興味がない部署への配属。その部署の仕事にも興味などもっているわけがなかったのだ。
 やがて、彼らがどうやっても覚える気がないようだ、と結論付けてしまったわたしは、彼らの面倒を見ることを放棄し、納期が迫っている仕事を一人で抱えてやるようになった。
 結果、彼らは何も仕事をしなくなり、それどころかばれていないと思ったのか、自分のブログは更新するわ、メール友達を作ろうとするわ、まさに無法地帯となってしまった。

 ・・・それから1年後、彼らは別の部署へと異動していった。彼らは、配属先の部署でも同じような問題を起こして目をつけられていた。それなのに、誰もきちんと注意しないようだった。注意しても反論されてしまうので、そのうちに諦めてしまうのだ。これはわたしがきちんとしつけなかったことに起因しているかもしれない。
 しかし、情けないことに、わたしは彼らがきちんとしないのは、わたしの力量が他の人に比べて低いからではなく、配属先の部署の人でさえコントロールできないではないか、ということに一種の安堵感さえ覚えていた。そうやって自分は悪くないと思い込もうとした。

 だが、自分の力不足は身に沁みてわかっていた。彼らがいなくなってから、わたしに足りないものはなんだったのかと考えた。リーダーシップとはなんだろうか。コーチングという言葉があるのか。
 そして、ビジネス書というジャンルを文字通り読み漁るようになった。

 そうするうちに、コーチング以外にも手を広げ、自己啓発、マネジメント、仕事術、経済、投資、世界情勢、マーケティング、小説・・・まさに何でも読むようになった。
 そんな中で手にとったのが「小さなことにくよくよするな!」だった。発売当初はベストセラーになるほどの人気だったらしい。道理で古本屋で大量に見かける。内容はごく簡単。表題のとおりである。

 小さなことにくよくよしない。気にしない。そうすれば、もっと心が豊かになり、周りからも好かれる人になる。

 そういう話だった。自己啓発本を読んでいつも思うのが、それを実行できるのならば、こんな本を読んではいない、ということだ。やりたいけどできない、そういうことだってあるのだ。
 しかし、本書は、本当に小さなことに絞り、そういうちょっとしたことに変化をつけていってみよう、と提案している。「それは無理だ」と思うことはやらなくてもいいと思う。
 本書には、幾つかの「やってみよう」ということが書いてある。一項目くらいなら、トイレに入っている間に簡単に読めてしまう。だから、トイレに置いておいて、朝会社に行く前にちょっと読み、その読んだことを実践してみる、というのでもいいかもしれない。
 ただし、本書を読んだからといって金銭的に裕福になるわけではない。現状は何も変わっていないかもしれないけど、心の持ちようが変わるので、幸せになる・・・という何だか宗教じみたものが、その結論として導き出されてしまう。けど、心の焦りとか、平安とかいうのは、そういう気の持ちよう、という問題なのかもしれない。

 友人を沢山つくりネットワークを広げられるようになった人は、それまで感じていた、このまま生活していけるのだろうか、という漠然とした不安感がなくなる、という話を聞いたことがある。
 結局は、一人で鬱屈としているよりも、みんなで楽しくやれば、不安が消し飛ぶということだろうか。そして、人と楽しく仲良くやっていくためには、小さなことにくよくよしないことなのだ。